学習支援情報通信システム論 (第12回テキスト)

他のeラーニング関連システムとLMSとの連携


LMSを取り巻く他のeラーニング関連システム (学務情報システム、テレビ会議システム、VODサーバ等)とLMSとの連携について述べます。

SISとLMSの連携

学務情報システム(SIS; 学習者がどの科目を履修登録しているかなどを管理するシステム) から LMS へデータを受け渡す仕組みは, eラーニングでの学習環境・教授環境を本格的に運用するためには欠かせません。 本科目で取り上げているLMSである Moodle にも,いくつかの「ユーザ登録プラグイン」から選択することで, コースへの履修登録の制御を外部データ・外部システムに基づいて行える機能が備わっています。

ここでは, IMSエンタープライズXML という標準的なフォーマットのデータファイルを Moodleに読み込むことで, Moodleに新たなコースを作成すると同時にそのコースに教師と学生を登録する方法について述べます。

手順としては,

  1. Moodle独自のデータ形式(といってもCSVですが)のファイルを手動でアップロードし,新規ユーザをMoodleに登録する
  2. IMSエンタープライズXMLのファイルを設置し,Moodleのバッチ処理(一定時間間隔で行われる自動処理)で新規コース作成とユーザの関連付けが行われるようにする
の順番です。 (実は,IMSエンタープライズXMLファイルを利用した新規ユーザの登録も可能なのですが, 現在のバージョンのMoodleではユーザのプロフィールデータの一部が登録できない問題があります。)

まず,新規ユーザの情報として,

username, lastname, firstname, email,                       idnumber, course1, group1, type1

kumagai,  熊谷, 多野世,      kuma@st.gsis.kumamoto-u.ac.jp, kumagai,  pra1blk2, グループ1, 1
eraiyo,   偉伊, 先生,      eraine@st.gsis.kumamoto-u.ac.jp, eraiyo,   pra1blk2,          , 2
のようなCSVファイルを,UTF-8の文字コードで作成し, BOM付けずに保存します。

(Windowsの「メモ帳」を使ってUTF-8で保存すると必ずBOM付のファイルになってしまうので注意。 EmEditor Freeなどを使えば, 保存時に文字コードとしてUTF-8を選んだとき,BOMを付けるか付けないかの指定ができます。)

「サイト管理」ブロック (管理者でログインしたときに通常左側に表示される下図のような枠) において,「ユーザ」をクリックし,その中の「アカウント」をクリックします。 moodle-admin1
そこに現れる「ユーザのアップロード」をクリックします。

moodle-admin2
先ほどのCSVファイルを「ファイル」に指定し,「必要な場合、パスワードを作成する」を選びアップロードすれば, 新規ユーザが作成されます。 (作成されたパスワードは各ユーザにメールで通知されます。各自の初回のログイン時にパスワード変更が強制されます。)

なお,CSVファイルのemailより右のフィールド (idnumber, course1, group1, type1) は必須フィールドではなく, たとえ無くてもユーザ登録は行われます。 詳しくは, ユーザのアップロードのヘルプファイルを見てください。


次に以下のようなファイルを,先程と同様にUTF-8で作成します。

<?xml version="1.0" encoding="UTF-8"?>
<enterprise>

<!-- 情報基礎A 1 -->
<group>
  <sourcedid>
    <source>SOSEKI, Kumamoto University</source>
    <id>2006-58-00201</id>
  </sourcedid>
  <description> 
    <short>情報基礎A 1</short> 
  </description>
  <org>
    <orgunit>教養教育</orgunit>
  </org>
</group>

<!-- ネットワーク援用教育論 --> 
<group> 
  <sourcedid>
    <source>SOSEKI, Kumamoto University</source>
    <id>2006-61-36430</id>
  </sourcedid>
  <description>
    <short>ネットワーク援用教育論</short>
  </description>
  <org>
    <orgunit>自然科学研究科</orgunit>
  </org>
</group> 


<!-- 熊谷さんは情報基礎A 1の受講生 -->
<membership>
  <sourcedid>
    <source>SOSEKI, Kumamoto University</source>
    <id>2006-58-00201</id>
  </sourcedid>
  <member>
    <sourcedid>
      <source>SOSEKI, Kumamoto University</source>
      <id>kumagai</id>
    </sourcedid>
    <idtype>1</idtype>
    <role roletype="01">
      <userid>kumagai</userid>
      <status>1</status>
    </role>
  </member>
</membership>

<!-- 熊谷さんはネットワーク援用教育論の受講生 -->
<membership>
  <sourcedid>
    <source>SOSEKI, Kumamoto University</source>
    <id>2006-61-36430</id>
  </sourcedid>
  <member>
    <sourcedid>
      <source>SOSEKI, Kumamoto University</source>
      <id>kumagai</id>
    </sourcedid>
    <idtype>1</idtype>
    <role roletype="01">
      <userid>kumagai</userid>
      <status>1</status>
    </role>
  </member>
</membership> 


<!-- 偉伊さんは情報基礎A 1の教師 -->
<membership>
  <sourcedid>
    <source>SOSEKI, Kumamoto University</source>
    <id>2006-58-00201</id>
  </sourcedid>
  <member>
    <sourcedid>
      <source>SOSEKI, Kumamoto University</source>
      <id>eraiyo</id>
    </sourcedid>
    <idtype>1</idtype>
    <role roletype="02">
      <userid>eraiyo</userid>
      <status>1</status>
    </role>
  </member>
</membership>

<!-- 偉伊さんはネットワーク援用教育論のコース作成者 -->
<membership>
  <sourcedid>
    <source>SOSEKI, Kumamoto University</source>
    <id>2006-61-36430</id>
  </sourcedid>
  <member>
    <sourcedid>
      <source>SOSEKI, Kumamoto University</source>
      <id>eraiyo</id>
    </sourcedid>
    <idtype>1</idtype>
    <role roletype="03">
      <userid>eraiyo</userid>
      <status>1</status>
    </role>
  </member>
</membership> 


</enterprise> 

このファイルは,IMSエンタープライズXMLの形式になっており,

の一連の処理を行うのに必要な情報が入っているファイルです。

このファイルをMoodleが動作しているサーバに転送します。 転送先の場所は,ホームディレクトリなど簡単にアップロードできる場所で問題ありません。
Moodleの 「ファイル」の機能 (各コースのトップページの 「管理」の中にある) でアップロードしたファイルを読み込ませることも可能です。 この場合、アップロードしたファイルのサーバ上でのパス(path)を特定する必要があります。 (詳細は後述。)

先程の「サイト管理」ブロックの,今度は「コース」をクリックし, その中の「ユーザ登録方法」をクリックします。 moodle-ims0

「IMSエンタープライズファイル」の Yes にチェックを入れ,「変更を保存する」を押します。 「IMSエンタープライズファイル」の「編集」のリンクをクリックします。

moodle-ims1

「ファイルロケーション」で先程転送したファイルの場所を指定します。

Moodleの「ファイル」の機能でアップロードしたファイルを使うときは以下に注意: 「ファイル」の画面上では各ファイルはリンク としてあらわされていますが、そのリンク先が たとえば、http://md.ield.kumamoto-u.ac.jp/va/pra/file.php/12/ims-ep1.xml である 場合,そのファイルのサーバ上でのパスは /var/lib/moodledatdir/va/pra/12/ims-ep1.xml に なるのでこれを「ファイルロケーション」に設定することになります。 (リンク先とパスの対応関係はMoodleのインストール方法によって変わります。)

「登録されていない場合はコース,カテゴリを作成」にチェックを入れ, 「変更を保存する」を押します。

うまくいけば,しばらくすると
moodle-ims2
のように,隠し属性を持ったコースが作成されます。(編集モードで隠し属性を解除し,見えるようにすれば使えます。)

ちなみに このような記述をXMLファイルの冒頭に書けば, ユーザ登録も行うことができます。 (ただし,ユーザプロフィールのデータの一部が不足してしまうので,それは別途登録する必要が出てきます。) また,MoodleへのIMSエンタープライズXMLファイルによる登録処理は,一旦上記のように設定すると, あとは時々刻々自動的に登録されます。(IMSエンタープライズXMLファイルを更新するだけでよいわけです。)

このような IMSエンタープライズXMLファイルによるコース登録の機能は,WebCTでもサポートされており, 熊本大学で開講されている全科目のWebCTへの自動登録(ユーザの履修登録も含む)に利用されています。

[参考資料 (Moodleのヘルプファイル)]
MoodleがサポートするIMSエンタープライズデータファイルの基本的な構造
IMS Enterprise 1.1 の要素の内,Moodle がサポートするもの
(なお,IMSエンタープライズXMLや,Moodleの当該機能についての日本語のドキュメントはまだほとんどネット上に存在しないようです。)


ビデオ会議システムやSkypeについて

LMSの機能の主なものは,非同期(学習者や教師が同時に参加しない)の学習に用いられるものですが, 同期で学習活動を行うことが必要・効果的である場面があります。 その際にはいわゆる「ビデオ会議システム」「TV会議システム」を併用することになります。

画像と音声をなるべく遅延が少なく,かつデータ欠損が生じないように長時間送受信し続ける ビデオ会議システムには,さまざまなデジタル通信技術を駆使する必要があります。 そのため基本的にはWebブラウザとは別のアプリケーションソフトとして動作する設計になっていることが多く, 場合によっては専用ハードウェアを用いることもあるので,LMSとの密な連携は余り行われず,併用の形態になります。

ビデオ会議システムでのデータのやり取りに関する標準規格としては, 古くからあるH.323があり, 後続の規格の元になっています。 教授システム学専攻でしばしば用いる SONYのビデオ会議システム もH.323に準拠しています。

いわゆるTV会議システムとは少し違いますが, 最近は一般のPCで使うIP電話やTV電話として,Skype の普及率が上がってきています。 高音質で簡単に接続できる,音声通話は最大5地点間でのやり取りが可能であるなどの特徴を持ち, Windows, Mac, Linux のどれでも対応しており,P2P技術を利用していることもあって話題となっています。 今後は学習環境に応用されることもあるかもしれません。


VODサーバとLMS

LMSコンテンツの中で動画を提供するのに一番簡単な方法は, 静止画のファイルと同様に動画ファイルをLMSと同じサーバに置き, LMSのコンテンツページからリンクを張る形にすることです。 サイズの小さい動画ファイルだとこれで十分ですが, サイズの大きい動画ファイルの場合, 同時に多数のアクセスがあるとサーバへの負荷が高くなり, サーバの動作が不安定になる恐れがあります。

多数からのアクセスに対して安定的に動画コンテンツを提供するために,ストリーミングサーバがよく用いられます。 ストリーミングサーバには,有償のものから無償のものまで数多くあります。 一般的な動画フォーマット

に対応する無償のストリーミングサーバソフト として

があります。最初の2つには,より高機能な有償版があります。Darwin Streaming Serverはオープンソースです。

これらのストリーミングサーバは, LMSが使用する通信プロトコル (HTTP) とは違うプロトコル(MMS, RTSPなど)を使用するのが通例のため, Webページへのリンクと同じ記述(<a href=...)を用い, ストリーミングサーバ上の動画へリンクを作っても, クリックしたときにうまく動画再生がされないことがあります。

ストリーミングサーバ上の動画をLMSコンテンツの中で使うには,

のいずれかが良いでしょう。 Windows Mediaの場合については,以下のサイトに具体的で分かりやすい説明があります。

工藤めぐみ「ブロードバンド時代のコミュニケーション術」ストリーミング配信に挑戦!
第5回:【実践編】ストリーミングコンテンツを公開しよう
http://www.rbbtoday.com/column/megumi/20030904/

タスク12

上記の説明を参考にして以下のいずれか1つを行い(2つ以上でもよい),うまくいった場合は結果と感想を, うまくいかなかった場合は失敗の状況と推定される原因を報告してください。


本コンテンツは、2008年2月現在の情報を元に作成しています。
お問い合わせ先: kita@ield.kumamoto-u.ac.jp